サイエンスキャスティング2013

宇宙機の熱設計
光源の研究
超高温超高圧発生装置を用いた新物質探索
金属脆性について
金属の不思議
電気を流すと色が消えるインク

調査テーマ

  • 宇宙機の熱設計~宇宙は暑いの?寒いの?~

    宇宙航空研究開発機構

    宇宙機は宇宙空間でとても厳しい熱環境に曝されます。太陽光が当たる部分の温度は100°C以上になり、冷たい宇宙空間に曝露された太陽光の当たらない部分の温度は-100°C以下になります。そのような過酷な熱環境から宇宙機を守り、壊れずに性能を発揮できるように温度を制御するための技術が「熱設計技術」です。
    人工衛星を思い浮かべた時、どんな色をしているでしょうか。金色を思い浮かべた人がいるかもしれません。人工衛星の表面を覆っている金色のものの正体は宇宙用の断熱材で、宇宙機の熱設計に用いられる技術のひとつです。
    本講義では、宇宙機が宇宙空間で曝される厳しい熱環境と宇宙機の熱設計について講義した後に宇宙機の熱設計に使用される様々な熱制御技術の実験を行い、講義と実験を通じて宇宙機の熱設計に対する理解を深めていただきました。

    宇宙機の熱設計
  • 準天頂衛星「みちびき」を身近に感じて

    宇宙航空研究開発機構

    カーナビがGPSなどの測位衛星からの信号を利用して位置を求めていることを知っていますか?準天頂衛星初号機「みちびき」も測位衛星のひとつで、日本のほぼ真上(準天頂)を通る軌道を周回することにより日本の天頂付近に長時間とどまることができます。これにより、GPSだけでは測位が難しかったビル街や山間部などの見通しの悪い場所でも位置を知ることができるようになるのです。「みちびき」独自の信号を利用したcm級測位の実現に向けた研究や、位置を知るというだけでなく防災・観光情報の提供、降水量予測や農機自動走行など、幅広い分野での利用に向けた研究が進められています。
    本講義では「みちびき」の概要と応用研究について紹介しました。また、実際に受信機を用いて「みちびき」からの信号を受信し、「軌跡で地図上に絵を描く」実習を通して衛星による測位を体験していただきました。

    準天頂衛星「みちびき」を身近に感じて
  • 光源の研究

    スタンレー電気株式会社

    私たちの身の回りには光を使った製品があふれていますが、それらの製品に使われている光源はどのような原理で光っていて、どのような特性を持っているのでしょうか?
    光を使った製品の中でも私たちに最も身近な製品は部屋の照明ですが、部屋の照明を変えただけで、部屋の雰囲気や居心地が変わります。光の質によって人が心理的影響を受けるからです。実は光源の特性には理由があり、用途に応じて設計されているのです。
    本講義では、普段直接目に触れることの無い光源に実際に触れて、特性を測定する事で、色々な光源の特徴とその光源が使われている理由を学びました。光源の特徴を比較する事で、新しい発見があるかもしれません。
    また、省エネルギーの光源として期待されているLEDの照明装置を見かける機会が多くなってきました。実際に白色LEDを試作する事で、LEDの仕組みや発光のメカニズムなどを理解しました。

    光源の研究
    光源の研究
  • 水生生物を用いた化学物質の環境影響評価

    国立環境研究所

    私たちの身の回りには多くの化学物質があり、私たちはそれらの恩恵を受けながら生活しています。化粧品や洗剤や薬や殺虫剤などが挙げられます。しかしその一方で、それら化学物質は最終的に環境中に放出され、環境に負荷をかけているものもあります。化学物質を単純に危険視するのではなく、その性質を知ったうえで安全に、そして環境に負荷がないように使うことが大切です。
    それではそれら化学物質の環境影響についてはどのように調べればよいのでしょうか。
    小型水生甲殻類の1種であるミジンコは、化学物質を管理する法律(化審法や化管法、農取法など)で、新たに作られる化学物質や農薬・医薬品の環境安全性試験にも用いられています。今回はその試験に使われているミジンコを用いて、身近な化学物質についての簡単な影響試験と観察を行いました。実習後にはきっとミジンコが愛おしくなるでしょう。

    身近な化学物質の毒性を調べる
    身近な化学物質の毒性を調べる
  • MRIで脳を測る

    国立環境研究所

    ヒトの脳には1,000億の神経細胞とこれらが連携するための100兆ものシナプスが存在すると言われ、これらは遺伝子の制御を超えていると考えられています。脳の形成には環境要因が大きな影響をもつと考えられる一つの理由です。
    私たちは世界でも有数の機能を持つMRI装置(図1)を用いてヒト脳の画像計測と解析を行っています(図2)。集積したデータに基づいて現代の日本人の脳を定量し、データベース化する研究を進めています。このような研究には、超伝導磁石、高周波技術、分析化学、生物物理化学など、様々な専門領域を鳩合する必要があります。参加していただく皆さんには装置の概要、画像化原理、ヒト脳の構造と解析など、研究の一端に触れていただければと考えました。

    .MRIで水1Hスピン情報を可視化する
    図1
    MRIで水1Hスピン情報を可視化する
    図2
  • 遺伝子組換え技術で光るカイコをつくる

    農業生物資源研究所

    カイコは約5000年前からヒトが絹(シルク)を取るために利用してきました。家畜化が進み、幼虫はとてもおとなしく、成虫は飛べません。数年前にゲノムが解読され、チョウの仲間の代表として様々な遺伝子の役割が調べられるとともに、遺伝子組換え技術を活用して、カイコに医薬品の原料となるタンパク質を作らせたり、光るシルクやクモ糸シルクが開発されるなど、カイコは今とても注目されています。
    ここでは、ノーベル化学賞で話題になったオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)等を利用した世界初の光るカイコの最先端研究を紹介し、実習を行いました。遺伝子組換えカイコの作り方や利用法を学んだ後、カイコの卵にDNA等を顕微注射したり、光るカイコを蛍光顕微鏡で観察しました。さらに希望者はカイコを解剖して、体のどこが光っているかを観察しました。その後、蛍光タンパク質とシルクをさせることによって作り出した蛍光シルクを用いて、試作した洋服等の貴重な実物を見学しました。有名デザイナーの桂由美氏と共同製作したウェディングドレスは必見です。

    遺伝子組換え技術で光るカイコをつくる
    遺伝子組換え技術で光るカイコを徹底調査
  • ネムリユスリ力の驚異的な乾燥耐性から学ぶ

    農業生物資源研究所

    水は生命活動に不可欠な分子で、実際人間の身体の約7割は水で、そのうちの1割を失うだけで危篤状態に陥ります。細胞レベルでは意外と乾燥に強いのですが、それでも50%以上脱水すると致死します。一方で地球上には身体の水分をほぼ完全に失っても死なない生き物たちが存在します。この無代謝の乾燥休眠はクリプトビオシスと呼ばれクマムシやカブトエビなどがよく知られた例でしょう。
    農業生物資源研究所ではクリプトビオシスする生物では最も高等で大型のネムリユスリカというアフリカ原産の昆虫を使って彼らの驚異的な乾燥耐性の分子機構について研究を進めています。将来的にこれらの成果は細胞や組織の「常温保存法」の開発に貢献するものと期待されます。また、乾燥した幼虫は極限温度、真空、放射線などに対しても高い耐性を持つことから国際宇宙ステーションでの実験材料にも用いられています。講演ではネムリユスリカ乾燥幼虫を水に戻して蘇生する様子を実際観察してもらいながら、「カラカラに乾いても死なない仕組み」や「ネムリユスリカを使った産業利用」について紹介しました。

    ネムリユスリ力の驚異的な乾燥耐性から学ぶ
    ネムリユスリ力の驚異的な乾燥耐性から学ぶ
  • 金属脆性について

    物質・材料研究機構

    私たちの身の回りで使用されている金属材料(例えば、鉄(Fe)やタングステン(W)、モリブデン(Mo))には、ある温度以下でもろくなる「低温脆性」という性質があります。タイタニック号の事故もこれが原因の一つと考えられています。試験片に衝撃荷重を加えて材料の粘り強さを調べる実験(シャルピー衝撃試験)を通して、金属の低温脆性について研究しました。

    金属脆性について
  • 金属の不思議

    物質・材料研究機構

    金属の「相変態」って知っていますか?それは金属原子の並び方が変わることなのですが、なぜそれが重要かというと、この「相変態」によって金属の特徴ががらりと変わってしまうからなんです。身の回りにたくさんある金属、その見た目は同じように見えても、実は中身は結構すごいんです。
    この研究では、金属の力学特性と磁性に注目します。加熱・冷却・加工などの実験を通して、それらの金属の性質がどのようにかわるのかを調べてみました。そして、実際に原子の並び方が変わっていく様子を計算機シミュレーションで見てみました。図は四角だった並び方(線の左側)が、菱形(線の右側)の並び方に変わっていく様子です。

    金属の不思議
  • 温度を下げると電気抵抗はどうなる

    物質・材料研究機構

    金属や半導体等の電気抵抗は、温度を下げるとどのように変化するでしょうか。実際に測定して試してみました。そして、低温で電気抵抗がゼロになる超伝導体も測ってみました。
    通常の研究では、こういったデータは高価な液体ヘリウムと高価な装置を用いて行います。しかし、ここでは、なるべく簡易な装置と学校のクラブでも手に入れることが可能な液体窒素を使って手作業の測定を体験してみました。4端子法による電気抵抗測定法や、電気抵抗と熱伝導率の関係などを学びました。

    温度を下げると電気抵抗はどうなる
  • 電気を流すと色が消えるインク

    物質・材料研究機構

    鉄や銅などの金属は、空気中でさびることが知られています。これは、空気中の酸素によって金属が酸化されて、酸化鉄や酸化銅になるためです。このように、金属は酸化状態が変わると、色が変わります。
    本実験では、「金属イオンを含むインク」でフィルムを作り、乾電池を使ってこのフィルムに3ボルトの電気を流します。その結果、フィルムの中の金属イオンが酸化されますが、その時、色がどのように変わるかを観察しました。

    電気を流すと色が消えるインク
    電気を流すと色が消えるインク
  • 微生物を分けてレーザーで撃て!

    産業技術総合研究所

    地球上のあらゆる環境に微生物は存在していると考えられていますが、どのような種類の微生物が存在するのかは、まだよくわかっていません。私たちは、環境中に生息する微生物を簡単に分析する技術の開発を進めています。
    多くの微生物の細胞の表面は、マイナスに帯電しています。私たちは、このことに着目して、マイクロサイズのガラス毛細管(キャピラリー)に微生物が入った液をいれて高電圧をかけて、帯電の程度の違いで微生物を生きたまま短時間で種類ごとに分ける方法を開発しました。さらに、微生物細胞に特殊な薬品を加えてレーザー光を瞬間的にあてると、細胞の中に含まれる数多くのタンパク質を一斉に分析することができます。私たちは、タンパク質の分子構造の微妙な違いに着目して、微生物の種類を調べる方法も開発しました。実習では、こうした最新の分析装置を使って、乳酸菌の分析を体験してみました。

    微生物を分けてレーザーで撃て
  • 超高温超高圧発生装置を用いた新物質探索

    産業技術総合研究所

    当グループでは、超伝導材料研究の一環として六方型キュービックアンビルを用いた超高温超高圧発生装置による新規材料開発を行っております。
    この装置の多くは地球科学等の研究分野で利用されておりますが、当グループではこれをエレクトロニクス分野の材料開発に応用しております。
    超伝導の実用化は、産業面では既に医療用MRI等に用いられており、半導体材料と同様、現代の基盤技術を支えております。しかしながら現在のところ、超伝導現象が生じる温度まで冷却しなければならないことから、冷媒が必要不可欠となることから、応用範囲は極めて限定的となり、理想的には室温でも作動する高温超伝導体の開発が望まれています。
    なお当グループにおける対象材料は、主に液体窒素温度を超える超伝導転移温度(Tc)を持つ銅酸化物系や、それに次ぐ高いTcをとる鉄系超伝導体を中心に研究することにより、従来の金属系超伝導体の超伝導発現機構とは異なると考えられている発現機構の解明をするとともに新規超伝導体の開発へと繋げるというどちらといえばやや基礎的な研究を行っております。
    当日は、この装置を用いて試料合成を行い、得られた試料をX線回折装置による評価し、物性特性評価として例えば、磁化測定による温度依存性の測定を行いました。

    超高温超高圧発生装置を用いた新物質探索
    超高温超高圧発生装置の試料合成部分
  • 素粒子を見てみよう!

    高エネルギー加速器研究機構

    高エネルギー加速器研究機構で行われている加速器を用いた素粒子・原子核実験においては、加速されたビームを標的に当てたりビーム同士を衝突させて、そこから発生する粒子の飛跡を捕えて、その散乱状態を解析することによって、素粒子・原子核の内部構造や性質などを明らかにしようとしています。このためには、それぞれの実験ごとに最適化された飛跡を捕えるための粒子検出器を研究者自ら設計・製作しなければなりません。このコースでは研究者の一旦を体験してもらうために、この粒子検出器の代表的な例であるワイヤーチェンバーのもっとも単純な検出器(アルミ管の中に金属細線を1本張ったもの)を実際に製作してもらいました。その後、自作したワイヤーチェンバーを使って、人工放射線源から放出されるX線やベータ線によって発生する信号の数や大きさをデジタルオシロスコープや電子回路を用いて測定してもらいました。これらを通して、自作した測定器の特性を理解するとともに、X線とベータ線の違いや量子力学的にふるまう素粒子の不思議な世界を体験してもらい、最後には、目には見えない素粒子を見たという感覚を味わってもらいました。

    素粒子を見てみよう
    素粒子を見てみよう
  • 光を分ける〜物質の構造と運動〜

    高エネルギー加速器研究機構

    私たちの身近にある物質は原子からできています。X線(光)や中性子が物質にあたると、物質内の原子の配置(構造)や運動状態に応じて、特定の方向に反射が起こります。KEKには、X線を使った研究をするためのフォトンファクトリーと中性子を使った研究をするためのJ-PARCがあります。これらを使って、どのように物質の構造や原子の運動を調べるのでしょうか。簡単な分光器を作ってその仕組みを考えてみました。

    光を分ける
  • 放射線を観る

    高エネルギー加速器研究機構

    宇宙でいちばん小さい物を観察してみませんか?
    宇宙にあるすべての物は、小さな粒からできています。皆さんの身近にある文房具も食べ物も皆さんの体もそうです。これらの粒子は、原子、原子核、素粒子などと呼ばれています。特に、原子核と素粒子は非常に小さいので、電子顕微鏡を使っても見ることができません。しかし、高速で飛んでいる原子核と素粒子(放射線といいます)は、放射線検出器を使って一つ一つ捕らえることができます。
    放射線は、皆さんの周りにある物からも飛んできます。空からも降ってきます。また、人工的に作ることもできます。健康診断に使われるエックス線も放射線の一種です。KEKで研究や測定に使われているいろいろな装置を使って、放射線をじっくりと観てみました。

    放射線を観る

サイエンスキャスティング2013開催概要

開催日時

2013年8月9日(金)11時 ~ 10日(土)16時30分

研究内容の調査

宇宙航空研究開発機構、スタンレー電気株式会社、国立環境研究所、農業生物資源研究所、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構で特定分野に従事する研究者を訪問し、研究内容を調査しました。通常のサイエンスツアーでは公開されていない研究内容を見ることができました。
参加者は、研究者の講義、実験、質問、写真撮影等により、研究内容を調査し記録しました。

グループでの討議とプレゼンテーション資料の作成

つくば国際会議場にて、班のメンバーと必要な討議を行い、一定の時間内に調査した内容を7分間程度で説明できるようなプレゼンテーション資料にまとめました。
他の研究テーマを訪問した仲間に、自分が訪問した研究テーマをわかりやすく説明することも、みなさんの重要なミッションの一つです。

プレゼンテーション

研究所を訪問し調査した内容を、7分間でプレゼンテーションしました。他の調査テーマを訪問した班にわかりやすく説明することを心がけました。
また、他の班の調査テーマを聞き、質問をし、今回は訪問できなかった調査テーマへの理解も深めました。

エポカルトークサロン(夕食会)

研究所の先生方と直接お話ができる夕食会です。時間がなくて聞けなかったことや、興味はあるけれども、今回は訪問できなかった研究所の先生方に、どんどん質問をしました。
※夕食までの自由時間には高校生が自分たちで制作したプラネタリウムを投影いたしました。