サイエンスキャスティング2016
調査テーマ
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光を分ける〜物質の構造と運動〜
高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、フォトンファクトリーという放射光科学研究施設(PF)と東海J-PARCにある物質・生命科学実験施設(MLF)において、X線・中性子・ミュオンを使って物質を調べています。このうちX線と中性子は「波の反射」を利用しています。私たちの身近にある物質は原子からできていますが、X線(光)や中性子が物質にあたると、物質内の原子の配置(構造)や運動状態に応じて、特定の方向に反射が起こります。これらを使って、どのように物質の構造や原子の運動を調べるのでしょうか。簡単な分光器を作ってその仕組みを考えてみました。
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鳥の目で地表の時空間を旅しよう
国土地理院
飛行機から撮影した2枚の航空写真をコンピュータ(解析図化機)にセットして特殊なめがねをつけてディスプレイを見ると、鳥になって空から地上を眺めおろすように地表が浮き上がってきます。地上で地形を測らなくても、解析図化機が細かい地形の凸凹を詳しく計測してくれます。計測した地形を3D表示しながら、地表の凸凹がどうしてできたのか考えてみましょう。すると、長い時間をかけて地表に働いてきた大きな力が見えてきます。
このテーマでは、解析図化機を操作して航空写真から地表の地形を計測する体験をしていただくとともに、地形を観察して地形をつくる力を考察し、災害や私たちの生活との関わりを考えてみました。 -
フィールドワークを体験して外来種問題を考えよう
農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動研究センター
セイタカアワダチソウやアメリカザリガニ、四つ葉のクローバーでおなじみのシロツメクサ、これらはごく身近な生き物ですが、実は別の場所から人の手によって運ばれてきた「外来種」です。日本には様々な外来種が住んでいますが、中には元々住んでいる生き物を食べてしまったり、害虫となって農作物に被害をもたらすものも知られています。
そんな外来種の被害を防ぐ第一歩は、問題となる外来種がどこに、どれだけ住んでいるのかを調べ、今どんな状態になっているのかを明らかにするフィールドワーク(野外調査)です。この講座ではおもに川や水路に住む外来種について室内で学んだ後、実際のフィールドワークを体験してもらいました。ノートと地図を片手に野外を歩けば、今まで知らなかった外来種問題の一面が見えました。 -
身近な化学物質の毒性を調べる
国立環境研究所
食品、医薬品、化粧品、衣料品など私たちの身の回りにはさまざまな化学物質があふれていて、それらの恩恵にあずかっています。しかし、それらを使った後、どうなるか考えてみたことはありますか?人間に悪影響を与える化学物質もありますが、人間には影響がなくても、使った後には環境中に出ていって、そこに棲んでいる魚や昆虫に害を与える化学物質も存在します。たとえば人間と昆虫とでは体の仕組みが違うので、違う性質の化学物質が作用するというわけです。しかし化学物質を単純に危険視するのではなく、その性質を知った上で安全に、そして環境に負荷がないように使うことが大切です。
日本では化学物質の環境安全性を調べる試験法の一つにミジンコやメダカという小さな生き物が用いられています。今回はそれらを使った簡単な実験と観察を通して、化学物質の安全性について考えてみました。 -
MRIで脳を測る
国立環境研究所
ヒトの脳には1,000億の神経細胞とこれらが連携するための100兆ものシナプスが存在すると言われ、これらは遺伝子の制御を超えていると考えられています。脳の形成には環境要因が大きな影響をもつと考えられる一つの理由です。
私たちは世界でも有数の機能を持つMRI装置(図1)を用いてヒト脳の画像計測と解析を行っています(図2)。集積したデータに基づいて現代の日本人の脳を定量し、データベース化する研究を進めています。このような研究には、超伝導磁石、高周波技術、分析化学、生物物理化学など、様々な専門領域を鳩合する必要があります。参加していただく皆さんには装置の概要、画像化原理、ヒト脳の構造と解析など、研究の一端に触れていただければと考えました。 -
遺夏の東京湾、海底付近は酸素欠乏!生き物たちのS.O.S.
国立環境研究所
海の底で何が起きているか?目に見えないので、多くの人は知らないかもしれません。かつて、江戸前と呼ばれた東京湾は、多くの魚介類が棲む、豊かな海でした。しかし、高度経済成長期に埋立てや工場立地が進み、一時は「死の海」とさえ呼ばれました。それでも、東京湾には今もさまざまな魚介類が棲み、漁業も行われています。
ところが、そんな東京湾では、毎年、夏季を中心に海底付近が酸素欠乏となってしまいます。なぜでしょうか?また、酸素欠乏の海底付近で暮らす生き物たちはどうなってしまうのでしょうか?
ここでは、東京湾における長年の調査結果を見ながら、東京湾に棲む魚介類の変化を知りました。また、夏季を中心に海底付近が酸素欠乏となるのはなぜか、酸素欠乏の海底付近で暮らす生き物たちがどうなってしまうのかを、簡単な実験で観察しました。
そして、どうすれば、東京湾の環境を改善できるか、一緒に考えました。 -
遺伝子組換え技術で光るカイコを徹底調査する
農業・食品産業技術総合研究機構生物機能利用研究部門
カイコは約5000年前からヒトが絹(シルク)を取るために利用してきました。家畜化が進み、幼虫はとてもおとなしく、成虫は飛べません。既にゲノムが解読され、チョウの仲間として様々な遺伝子の役割が調べられるとともに、遺伝子組換え技術を活用して、医薬品の原料となるタンパク質を作らせたり、光るシルクやクモ糸シルクが開発されており、また2014年、富岡製糸場等が世界遺産に登録され、カイコは改めて注目されています。
ここでは、ノーベル化学賞で話題になったオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)等を利用した世界初の光るカイコの最先端研究を紹介し、実習を行いました。遺伝子組換えカイコの作り方や利用法を学んだ後、卵にDNA等を顕微注射したり、GFPタンパク質を抽出しました。さらに希望者はカイコを解剖して、体のどこが光っているかを観察しました。また、蛍光タンパク質とシルクを融合させた光るシルクを用いて試作した洋服等の貴重な実物を見学しました。 -
VRで驚きのUFO浮遊体感!~世界最先端の「ハプティクス・フォースリアクター」テクノロジー
株式会社ミライセンス/産業技術総合研究所
最近話題沸騰中のバーチャルリアリティ(VR)技術。VR眼鏡をつければ、自分の周りに、実物と見まがうほどのリアルな仮想世界が広がります。しかし、そこには、大きな欠点があるのを知っていますか?そう、目には見えているのに、自分の手では決して触ることができないのです。VRの仮想世界で、かわいい動物が出現、その動物に触ろうとしてもするっと手がすりぬけてしまい、実際にさわったり、なでたりする感覚は、自分の手には伝わってきません。
ミライセンスはこの欠点を解決するため世界初・最先端の「ハプティクス・フォースリアクター」デバイスを開発しました。そのデバイスを手に持ては、そのデバイスから発生する特殊な振動で、手の神経を刺激することにより、脳内に特別な「錯覚」を発生。ざらざらといった触った感覚や、ひっぱる/押されるといった浮遊感を仮想的に感じることができます。まさに、「触覚のバーチャルリアリティ」。もう数年で、VRをはじめ、スマートフォン、電気自動車、ロボットなどに搭載されていく予定です。
本講座では、さまざまなタイプのハプティクス・フォースリアクターを実際に体験しました。ゲームコントローラタイプ、平面なのに立体を感じる不思議なパネルタイプ、小型指先装着タイプなどなど。ミライセンスが研究開発している最新技術を、発明者の「N博士」が解説。どうしてそんな世紀の発明できたかもこっそり教えました。みんなで、未来を語りました。 -
超高温超高圧発生装置を用いた新物質探索
産業技術総合研究所
現実の世界とほとんど相互作用をしない原子核スピン量。それを音として取り出して「化学を観る」方法が核磁気共鳴スペクトルです。私たちは、その核磁気共鳴(NMR)装置を使って、混合物を精製すること無く測定し、知識を発見する技術の開発と普及を行っています。
当グループでは、超伝導材料研究の一環として六方型キュービックアンビルを用いた超高温超高圧発生装置による新規材料開発を行っております。
この装置の多くは地球科学等の研究分野で利用されておりますが、当グループではこれをエレクトロニクス分野の材料開発に応用しております。
超伝導の実用化は、産業面では既に医療用MRI等に用いられており、半導体材料と同様、現代の基盤技術を支えております。しかしながら現在のところ、超伝導現象が生じる温度まで冷却しなければならないことから、冷媒が必要不可欠となることから、応用範囲は極めて限定的となり、理想的には室温でも作動する高温超伝導体の開発が望まれています。
なお当グループにおける対象材料は、主に液体窒素温度を超える超伝導転移温度(Tc)を持つ銅酸化物系や、それに次ぐ高いTcをとる鉄系超伝導体を中心に研究することにより、従来の金属系超伝導体の超伝導発現機構とは異なると考えられている発現機構の解明をするとともに新規超伝導体の開発へと繋げるというどちらといえばやや基礎的な研究を行っております。
当日は、この装置を用いて試料合成を行い、得られた試料をX線回折装置による評価し、物性特性評価として例えば、磁化測定による温度依存性の測定を行いました。 -
花火を作って、仕組みを調べよう!
産業技術総合研究所
花火には化学の基礎がぎっしりと詰まっています。物はなぜ燃えるか?炎色反応はなぜきれいな色がでるか?実際に花火を安全な方法で作り、周期律表・電子配置・原子と分子などの知識を元に、量子科学の扉を開いてみました。また、産総研で行っている花火の安全研究についても紹介しました。
特に炎色反応の原理については調べる方法が少なく、良い解説がありません。花火を使うと簡単に2000°Cを超える高温が得られるため、炎色反応の秘密を探る良い手段です。右の図はストロンチウムを入れた紅色花火の発光スペクトルです。多くの紅色光を出していることがわかります。どうしてそうなるか?それを考えて頂きました。
サイエンスキャスティング2016開催概要
開催日時
2016年8月5日(金)11時~6日(土)16時30分
研究内容の調査
高エネルギー加速器研究機構、国土地理院、農業・食品産業技術総合研究機構(農業環境変動研究センター、生物機能利用研究部門)、国立環境研究所、株式会社ミライセンス、産業技術総合研究所で特定分野に従事する研究者を訪問し、研究内容を調査しました。通常のサイエンスツアーでは公開されていない研究内容を見ることができました。
参加者は、研究者の講義、実験、質問、写真撮影等により、研究内容を調査し記録しました。
グループでの討議とプレゼンテーション資料の作成
つくば国際会議場にて、班のメンバーと必要な討議を行い、一定の時間内に調査した内容を7分間程度で説明できるようなプレゼンテーション資料にまとめました。
他の研究テーマを訪問した仲間に、自分が訪問した研究テーマをわかりやすく説明することも、みなさんの重要なミッションの一つです。
プレゼンテーション
研究所を訪問し調査した内容を、7分間でプレゼンテーションしました。他の調査テーマを訪問した班にわかりやすく説明することを心がけました。
また、他の班の調査テーマを聞き、質問をし、今回は訪問できなかった調査テーマへの理解も深めました。
エポカルトークサロン(夕食会)
研究所の先生方と直接お話ができる夕食会です。時間がなくて聞けなかったことや、興味はあるけれども、今回は訪問できなかった研究所の先生方に、どんどん質問をしました。
※夕食までの自由時間には高校生が自分たちで制作したプラネタリウムを投影いたしました。