サイエンスキャスティング2014
調査テーマ
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国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟で実験を実施するには
有人宇宙システム株式会社
地上から約400km上空に建設された有人施設、国際宇宙ステーション(ISS)。日本はその一部となる「きぼう」日本実験棟を開発し参加しています。現在「きぼう」では、色々な分野の宇宙実験が行われており、その準備や実施には様々な人が関わっています。
本講義では、それらの様々な立場で宇宙実験を支えている人達の仕事を紹介し、理解を深めました。その後、宇宙航空研究開発機構の筑波宇宙センターの施設を見学しました。 -
ロボットスーツのある未来
CYBERDYNE株式会社
ロボットスーツHAL(ハル)をご存知ですか?
HALはHybrid Assistive Limbの略で、装着することで、装着した方の身体動作を改善・補助・拡張することができる、世界初のサイボーグ型ロボットです。
この講座では、HALのような最先端テクノロジーがなぜ必要とされ、どのようにして私たちの日常生活に溶け込んでいくのか、社会の課題を解決する為にテクノロジーを応用しようとする最前線の取組みについてご紹介いたしました。
ロボットに興味の有るみなさんの為に、当日は、装着型ロボット「ロボットスーツHAL」の動作原理について体験いただきました。これは、世界初の特許としても登録されており、装着者の脳からの指令によって皮膚表面に発生する電気信号をキャッチして動くというものです。当日は脳からの指令を出して、ロボットスーツを操っていただきました。
それから、当日は特別に構造などを学んでいただくため、日本の病院や福祉施設で実際に使用されているロボットスーツHAL福祉用を、箱から出して実際に組み立てて準備し、装着までしていただきました。
CYBERDYNE株式会社では、筑波大学で研究が進んでいる人・機械・情報系が融合複合した学際領域「サイバニクス」の技術を駆使し、ロボットスーツHALに代表される製品を開発・製造・販売していきます。これは、社会に存在する目の前の課題を解決する為に技術を社会実装していく取り組みです。
「科学技術は人の役に立ってこそ意味がある」ということを、未来を担う皆様に、この講座を通して感じ取っていただけたら嬉しいです。- ロボットスーツ/プレゼン (40分)休憩5分
- 安全講習/エッセンス版 (45分)休憩15分
- 組み立て→装着→体験 (45分)
修了証を発行します
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環境に安全な農薬の使用をめざして
農業環境技術研究所
私たちが毎日食べているお米、野菜や果物などの農作物は農家の方が大切に育てたものです。農地にはいろいろな病原菌、害虫や雑草が生息していて農作物に被害を与え、農家を困らせています。農薬は農作物につく病害虫や雑草を効率的に防除して農家の重労働を軽減し、私たち消費者に食糧を安定的に供給するのに役立っています。
このように農薬は日本の農業に欠かせないものですが、環境中の生物に農薬が悪影響を与えているのではないか、という懸念が常に抱かれています。環境に対し安全に農薬を使用するためには、環境中に生息する様々な生物に対する農薬の影響をしっかりと評価・把握することが重要です。
本講義では、わが国の河川に生息している水生生物(水生昆虫と付着藻類)の観察を行い、これらの生物を使った農薬の影響試験を通して、農薬の環境に対する安全性の評価について理解を深めていただきました。 -
水生生物を用いた化学物質の環境影響評価
国立環境研究所
私たちの身の回りには多くの化学物質があり、私たちはそれらの恩恵を受けながら生活しています。化粧品や洗剤や薬や殺虫剤などが挙げられます。しかしその一方で、それら化学物質は最終的に環境中に放出され、環境に負荷をかけているものもあります。化学物質を単純に危険視するのではなく、その性質を知ったうえで安全に、そして環境に負荷がないように使うことが大切です。
それではそれら化学物質の環境影響についてはどのように調べればよいのでしょうか。
小型水生甲殻類の1種であるミジンコは、化学物質を管理する法律(化審法や化管法、農取法など)で、新たに作られる化学物質や農薬・医薬品の環境安全性試験にも用いられています。今回はその試験に使われているミジンコを用いて、身近な化学物質についての簡単な影響試験と観察を行いました。実習後にはきっとミジンコが愛おしくなるでしょう。 -
MRIで脳を測る
国立環境研究所
ヒトの脳には1,000億の神経細胞とこれらが連携するための100兆ものシナプスが存在すると言われ、これらは遺伝子の制御を超えていると考えられています。脳の形成には環境要因が大きな影響をもつと考えられる一つの理由です。
私たちは世界でも有数の機能を持つMRI装置(図1)を用いてヒト脳の画像計測と解析を行っています(図2)。集積したデータに基づいて現代の日本人の脳を定量し、データベース化する研究を進めています。このような研究には、超伝導磁石、高周波技術、分析化学、生物物理化学など、様々な専門領域を鳩合する必要があります。参加していただく皆さんには装置の概要、画像化原理、ヒト脳の構造と解析など、研究の一端に触れていただければと考えました。 -
遺伝子組換え技術で光るカイコをつくる
農業生物資源研究所
カイコは約5000年前からヒトが絹(シルク)を取るために利用してきました。家畜化が進み、幼虫はとてもおとなしく、成虫は飛べません。数年前にゲノムが解読され、チョウの仲間の代表として様々な遺伝子の役割が調べられるとともに、遺伝子組換え技術を活用して、カイコに医薬品の原料となるタンパク質を作らせたり、光るシルクやクモ糸シルクが開発されるなど、カイコは今とても注目されています。
ここでは、ノーベル化学賞で話題になったオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)等を利用した世界初の光るカイコの最先端研究を紹介し、実習を行いました。遺伝子組換えカイコの作り方や利用法を学んだ後、カイコの卵にDNA等を顕微注射したり、光るカイコを蛍光顕微鏡で観察しました。さらに希望者はカイコを解剖して、体のどこが光っているかを観察しました。その後、蛍光タンパク質とシルクをさせることによって作り出した蛍光シルクを用いて、試作した洋服等の貴重な実物を見学しました。有名デザイナーの桂由美氏と共同製作したウェディングドレスは必見です。 -
ネムリユスリ力の驚異的な乾燥耐性から学ぶ
農業生物資源研究所
2014年5月に国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在された若田宇宙飛行士が無事任務を終えられて地球に帰還されました。日本の実験棟「きぼう」で若田宇宙飛行士が実施した宇宙実験の一つが「乾燥ネムリユスリカが微重力下で蘇生するかどうか?」というものでした。結果は、ほとんどすべての乾燥幼虫が水戻し3時間後には活動を再開し、さらにその2週間後には、蛹や成虫に変態した個体も確認できました。今後も、ネムリユスリカを使った様々な宇宙実験がISSで実施されることになるでしょう。
本ワークショップでは、ネムリユスリカ幼虫がカラカラに干涸びても、なぜ死なないのか、そして乾燥した幼虫は極限環境に暴露されても、なぜ平気なのか、彼らの驚異的なストレス耐性の仕組みについて紹介しました。また、2013年に5月に生物実験衛星BION M1に搭載され、宇宙旅行から帰還した乾燥ネムリユスリカ幼虫を実際に使って、様々な極限環境に対する耐性の様子も体験できました。 -
微生物を分けてレーザーで撃て!
産業技術総合研究所
地球上のあらゆる環境に微生物は存在していると考えられていますが、どのような種類の微生物が存在するのかは、まだよくわかっていません。私たちは、環境中に生息する微生物を簡単に分析する技術の開発を進めています。
多くの微生物の細胞の表面は、マイナスに帯電しています。私たちは、このことに着目して、マイクロサイズのガラス毛細管(キャピラリー)に微生物が入った液をいれて高電圧をかけて、帯電の程度の違いで微生物を生きたまま短時間で種類ごとに分ける方法を開発しました。さらに、微生物細胞に特殊な薬品を加えてレーザー光を瞬間的にあてると、細胞の中に含まれる数多くのタンパク質を一斉に分析することができます。私たちは、タンパク質の分子構造の微妙な違いに着目して、微生物の種類を調べる方法も開発しました。実習では、こうした最新の分析装置を使って、乳酸菌の分析を体験してみました。 -
共感を広める認知支援技術
産業技術総合研究所
同じものを見ても、注意力や記憶力、経験や知識によって、一人一人に見えている世界は違っています。しかし、私たちは普段、「自分が見たものは正しい」「自分に見えているものは、相手にも同じように見えている」と思ってしまいがちです。年齢や経験による見え方の違いは、世代や環境による考え方の違いや、相手と理解し合えない問題に繋がっているかもしれません。
私たちの研究室では、こうした年齢や経験が視覚認知に及ぼす影響を、様々な画像や映像に対するヒトの反応や視線を分析することで研究しています。また、見え方や体験を共有できる視覚認知支援技術に応用し、コミュニケーションや共感を促進することを目指しています。
参加する皆さんには、実際に自分の注意や記憶の容量や視覚特性を計測する心理物理実験を通して、脳と心に見える世界を科学的に調べる研究を体験してもらいました。 -
花火を通して考える光と量子科学の世界
産業技術総合研究所
花火には化学の基礎がぎっしりと詰まっています。物はなぜ燃えるか?炎色反応はなぜきれいな色がでるか?高校で学ぶ周期律表・電子配置・原子と分子などの知識を元に、量子科学の扉を開いてみました。また、産総研で行っている花火の安全研究についても紹介しました。
特に炎色反応の原理については調べる方法が少なく、良い解説がありません。花火を使うと簡単に2000°Cを超える高温が得られるため、炎色反応の秘密を探る良い手段です。右の図はストロンチウムを入れた紅色花火の発光スペクトルです。多くの紅色光を出していることがわかります。どうしてそうなるか?それを考えて頂きました。 -
素粒子を見てみよう!
高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構で行われている加速器を用いた素粒子・原子核実験においては、加速されたビームを標的に当てたりビーム同士を衝突させて、そこから発生する粒子の飛跡を捕えて、その散乱状態を解析することによって、素粒子・原子核の内部構造や性質などを明らかにしようとしています。このためには、それぞれの実験ごとに最適化された飛跡を捕えるための粒子検出器を研究者自ら設計・製作しなければなりません。このコースでは研究者の一旦を体験してもらうために、この粒子検出器の代表的な例であるワイヤーチェンバーのもっとも単純な検出器(アルミ管の中に金属細線を1本張ったもの)を実際に製作してもらいました。その後、自作したワイヤーチェンバーを使って、人工放射線源から放出されるX線やベータ線によって発生する信号の数や大きさをデジタルオシロスコープや電子回路を用いて測定してもらいました。これらを通して、自作した測定器の特性を理解するとともに、X線とベータ線の違いや量子力学的にふるまう素粒子の不思議な世界を体験してもらい、最後には、目には見えない素粒子を見たという感覚を味わってもらいました。
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光を分ける〜物質の構造と運動〜
高エネルギー加速器研究機構
私たちの身近にある物質は原子からできています。X線(光)や中性子が物質にあたると、物質内の原子の配置(構造)や運動状態に応じて、特定の方向に反射が起こります。KEKには、X線を使った研究をするためのフォトンファクトリーと中性子を使った研究をするためのJ-PARCがあります。これらを使って、どのように物質の構造や原子の運動を調べるのでしょうか。簡単な分光器を作ってその仕組みを考えてみました。
サイエンスキャスティング2014開催概要
開催日時
2014年8月1日(金)11時~2日(土)16時30分
研究内容の調査
有人宇宙システム株式会社、CYBERDYNE株式会社、農業環境技術研究所、国立環境研究所、農業生物資源研究所、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構で特定分野に従事する研究者を訪問し、研究内容を調査しました。通常のサイエンスツアーでは公開されていない研究内容を見ることができました。
参加者は、研究者の講義、実験、質問、写真撮影等により、研究内容を調査し記録しました。
グループでの討議とプレゼンテーション資料の作成
つくば国際会議場にて、班のメンバーと必要な討議を行い、一定の時間内に調査した内容を7分間程度で説明できるようなプレゼンテーション資料にまとめました。
他の研究テーマを訪問した仲間に、自分が訪問した研究テーマをわかりやすく説明することも、みなさんの重要なミッションの一つです。
プレゼンテーション
研究所を訪問し調査した内容を、7分間でプレゼンテーションしました。他の調査テーマを訪問した班にわかりやすく説明することを心がけました。
また、他の班の調査テーマを聞き、質問をし、今回は訪問できなかった調査テーマへの理解も深めました。
エポカルトークサロン(夕食会)
研究所の先生方と直接お話ができる夕食会です。時間がなくて聞けなかったことや、興味はあるけれども、今回は訪問できなかった研究所の先生方に、どんどん質問をしました。
※夕食までの自由時間には高校生が自分たちで制作したプラネタリウムを投影いたしました。